裏波溶接という言葉を聞いたことはあっても、「どのような製品で必要になるのか」「なぜ通常の溶接ではなく、裏波まで求められるのか」「依頼前に何を確認しておけばよいのか」までは、分かりにくいことがあるかもしれません。
裏波溶接とは、溶接した面の反対側にもビードを形成し、内部までしっかり溶け込ませる溶接方法です。
当社では、真空機器や半導体製造装置、配管・圧力容器など、内外面ともに高い品質が求められる製品で裏波溶接に対応しています。
特に近年は、水冷部品で裏波溶接を要求されるケースも増えています。裏側に隙間があると、その部分から隙間破壊が進行し、経年劣化で水漏れが生じる場合があります。
半導体製造装置のような高価な装置では、10年以上水漏れ事故なしを保証しなければならないことが近年発生しているためです。
この記事では、どのような製品で裏波溶接が必要になるのか、その理由と、依頼前に確認しておきたいポイントについて整理してお伝えします。
裏波溶接とは
裏波溶接とは、溶接面だけでなく、その裏側にもビードを形成する溶接方法です。
通常、片側から溶接するだけでは、裏面まで十分に溶け込まない場合があります。
しかし、
- 内部に段差や隙間を残したくない
- 液体や気体が通る部分の内面品質を高めたい
- 気密性や水密性を確保したい
- 内部に液溜りや異物が残りにくい状態にしたい
- 耐久年数を上げたい(10年以上気密保証)
- 母材と同等な強度が必要な場合
といった製品では、裏面まで確実に溶け込ませる必要があります。
当社では、内面に液溜り、空気溜まり、コンタミなどが許されない製品に適用されています。
真空機器、半導体製造装置、食品機械などの製品で当社は、裏波溶接を求められております。
当社は管轄外でありますが、建築や大型構造物も強度保証のために裏波溶接が求められます。
どのような製品で裏波溶接が必要になるのか
当社で裏波溶接が必要になる製品には、いくつか共通する特徴があります。
1.真空機器
真空機器では、内部の真空状態を維持するため、溶接部の気密性が重要になります。
溶け込みが不十分な部分や溶接欠陥があると、漏れにつながる可能性があります。
また隙間があると空気溜まりができて、真空状態にするのに時間がかかります。
また、高真空にできなくなるため、内側ビードは絶対条件となります。
必ずしも裏波溶接が必要な訳ではなく、内側溶接が可能な箇所は、内側と外側を別々に溶接する場合もあります。
真空チャンバーや真空配管などでは、溶接部の内部まで品質を確認しながら製作することが重要です。
2.半導体製造装置
半導体製造装置では、気密性だけでなく、内部の清浄性が求められる場合があります。
内面に段差や隙間が残ると、液溜りやコンタミの原因となることがあります。
そのため、内部を滑らかな状態に仕上げる目的でも、裏波溶接が求められます。
3.水冷部品
水冷配管や水冷ジャケット、ラジエーターなどでは、水や冷却液が内部を流れます。
当社では、水密溶接対象品の9割以上で裏波溶接が要求されており、水冷配管やラジエーターなどが主要な対応製品となっています。
内部に隙間があると、繰り返しの温度収縮により隙間破壊が起きやすくなります。
このため半導体製造装置向け部品では、耐久性向上のために隙間無しで溶接する裏波溶接が採用されるケースが増えています。
水密性を確保するだけでなく、内部まで安定した溶接状態を成立させることが重要です。
4.配管・圧力容器
配管や圧力容器など、内部に気体や液体が流れる製品でも裏波溶接が求められることがあります。
特に、内外面ともに高い品質が必要な部品では、溶接内部まで確実に溶け込んでいることが重要になります。
なぜ裏波溶接が求められるのか
裏波溶接が求められる理由は、単に「裏側まできれいに見せるため」ではありません。
重要なのは、製品として必要な品質を成立させることです。
気密性・水密性を確保するため
真空部品や水冷部品では、漏れを防ぐことが重要です。
裏波を形成し、溶接内部まで十分に溶け込ませることで、溶接部の健全性を高めることができます。
当社では、水密溶接品についてリーク検査を100%実施し、窒素や水による加圧検査のほか、Heリークディテクターによる検査にも対応しています。
内面品質を高めるため
流体が通る配管や、清浄度が重要な製品では、内面の状態も品質に影響します。
溶接部の裏側に段差や未溶着部分があると、液溜りや異物の滞留につながることがあります。
そのため、外側から見える仕上がりだけでなく、内部まで確認することが重要です。
強度を安定させるため
裏波溶接では、溶接部を内部までしっかり溶け込ませます。
完全溶け込みに近い状態をつくることで、溶接部全体として安定した強度を確保しやすくなります。
裏波溶接はどんな形状でもできるのか
裏波溶接は、どのような構造でも同じようにできるわけではありません。
製品形状、板厚、継手形状、溶接方法などによって難易度が変わります。
例えば、両側からトーチが届く構造であれば、両面から溶接できる場合があります。
一方で、閉じた構造や、裏側からトーチを入れられない製品では、片側から裏面まで溶け込ませる必要があります。
こうしたケースで裏波溶接の技術が重要になります。
また、以前ご紹介したヘッダー配管のように、枝管を溶接する場合には隅肉溶接の構造となり、一般的には裏波を形成することが難しくなります。
当社では、長年蓄積してきた技術を活かし、板厚2mm程度の薄肉枝管で裏波を形成する対応も行っています。
ソケットや継手のように肉厚がある場合には、丸管に枝管を溶接した後、継手やソケットを溶接する方法など、構造に応じて工程を検討します。
TIG溶接とレーザー溶接で考え方はどう違うのか
裏波溶接には、TIG溶接やファイバーレーザー溶接などが用いられます。
TIG溶接
TIG溶接は、精密な溶接に適した方法です。
一方で、溶け込み量が限られるため、板厚によっては開先を設け、複数回に分けて溶接する必要があります。
当社では、WPSやPQRの整備、社内認定制度を設け、認定した溶接技術者による生産体制を整えています。
ファイバーレーザー溶接
ファイバーレーザー溶接では、キーホール溶接によって深い溶け込みを得ることができます。
当社では、ファイバーレーザー溶接を用いて開先加工を行わずに裏波溶接を実現しております。<10mm以下の板厚>
特に、水冷プレートなどでは、TIG溶接に比べて歪みを抑えやすい点もメリットになります。
依頼前に確認しておきたいポイント
裏波溶接を依頼する際には、次のような点を整理しておくと相談がスムーズです。
1.なぜ裏波が必要なのか
まず確認したいのは、裏波溶接が必要な理由です。
- 気密性が必要なのか
- 水密性が必要なのか
- 内面の清浄性が重要なのか
- 強度要求があるのか
目的によって、適した溶接方法や検査方法が変わります。
2.板厚や材質
ステンレス、アルミなど、材質によって溶接条件は変わります。
また、板厚によってTIG溶接が適している場合もあれば、レーザー溶接が適している場合もあります。
3.継手や製品の形状
突合せ溶接なのか、枝管なのか、閉じた構造なのかによって、裏波形成の難易度は変わります。
図面段階で構造を確認することが重要です。
4.必要な検査
裏波が形成されていることをどのように確認するかも重要です。
当社では、ファイバースコープによる内部確認や、必要に応じて溶接部を切断して確認するなど、厳格な品質チェックを行っています。
当社が大切にしていること
裏波溶接で重要なのは、「裏波を出せるかどうか」だけではありません。
本当に重要なのは、必要な裏波品質を安定して再現できるかどうかです。
当社では、WPSやPQRの整備、社内認定制度、初回確認、ファイバースコープによる検査などを行い、安定した品質を確保するための体制を整えています。
製品の構造、材質、板厚、用途、検査条件まで含めて、「どのようにすれば必要な品質として成立するか」を考えることを大切にしています。
まとめ
裏波溶接は、溶接部の裏側までビードを形成し、内部までしっかり溶け込ませるための溶接方法です。
特に、
- 真空機器
- 半導体製造装置
- 水冷部品
- 配管
- 圧力容器
など、気密性・水密性・内面品質が重要になる製品で求められます。
ただし、裏波溶接はどのような形状でも同じようにできるわけではありません。
材質、板厚、継手形状、製品構造、使用条件、検査方法まで含めて考えることが重要です。
裏波溶接が必要な部品や、「この構造で裏波が出せるのか分からない」といった案件についても、ぜひ図面段階からご相談ください。
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